男の弱さと女の強さ、太宰の世界を美しく描く「ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~」
戦後の東京、才能を認められながらも酒飲みで放蕩三昧を続け借金まみれの小説家・大谷(浅野忠信)。その夫を健気に支える妻・佐知(松たか子)は、まだ幼い病弱な子供の薬代も払えない貧乏な生活の中で、夫が踏み倒した酒代を肩代わりするため、大谷が迷惑をかけた居酒屋で働くことになった。
佐知はそのお店で生き生きと働くようになり、持ち前の性格で常連客からも可愛がられ、椿屋は繁盛をする。そんな佐知に思いを寄せる岡田(妻夫木聡)、かつて佐知が憧れていた辻(堤真一)が現れ、そんな妻に大谷は嫉妬する。そして大谷は、愛人の秋子(広末涼子)とともに心中を図るのだった。
文豪太宰治の短編小説の映画化。戦後の混乱期の時代背景、放蕩を続け、盗みにも手を付けて自嘲しつつも中世フランスの詩人ヴィヨンを自分に擬えている大谷。そんな夫に振りまわされながらも支え、共に生きていこうとする佐知。自立して生きていこうと誓う佐知の明るくしなやかな生き様を描く。
死にたいと翳りをもって語る大谷を、太宰は自身を映し描いたのだろうか。破滅的な生き方、愛人達との心中を何度も図るエピソードは通じる部分も多い。そして大谷演じる浅野も、ほおづえをつく姿など太宰を意識しています。戦後間もない日本の風景と匂いの中で太宰の心を感じる、そんな映画です。
「ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~」 7点 ★★★☆
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