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2009年10月14日 (水)

腐らないリンゴの話~「奇跡のリンゴ」木村秋則の記録

Rigo4リンゴの木は、リンゴの木だけで
 生きているわけではない。
 周りの自然の中で、
 生かされている生き物なわけだ。
 人間もそうなんだよ。
 人間はそのことを忘れてしまって、
 自分独りで生きていると思っている

 (本書より抜粋)

 最初「腐らないリンゴ」ってきいた時、特に感慨もなく意味が分からなかった。リンゴが腐らないという話は、あたかも人は死なないというような話にも似た非現実的な話という印象でしかなかったからだ。腐らない、という表現は適切じゃない。ちょっと、本書の前書きの部分を引用する。

・・半年先まで予約でいっぱいの、知る人ぞ知る隠れレストラン。その看板メニューの一つが、「木村さんのリンゴのスープ」です。シェフの井口久和さんが、リンゴをきざみながら呟きます。
「腐らないんですよね。生産者の魂がこもっているのか・・・」
井口さんの厨房で、二年前から保存されていた、二つに割ったリンゴを目にしました。通常、リンゴは切ったまま置いておくと、すぐに変色し、やがては腐ってしまいます。しまし、その木村さんのリンゴは腐ることなく、まるで「枯れた」ように小さくしぼんでいました。そして、赤い色をほのかに残したまま、お菓子のような甘い香りを放っていたのです
。」
 (本書より抜粋)

Ringo3  現代、品種改良が繰り返され、大きく甘くなったリンゴは、農薬の助けなしでは病害虫に戦えない、きわめて弱い植物なのだそうだ。そう言う意味で、リンゴは農薬に強く依存した、現代農業の象徴的存在と言える。そのリンゴを無農薬で育てる、そんな途方もない夢に魅入られたのが、木村秋則さんだ。
 青森県の農家で次男坊として育った木村さんは、機械の仕組みが好きな少年期を過ごし、高校卒業後上京、川崎の工場で勤務、やがて青森に呼び戻され、リンゴ農家に婿養子ではいる。最初はアメリカ型のトラクターで農薬をバンバン蒔いての農業をやっていたが、ある書と出逢って彼は変わった。

「自然農法」福岡正信著
福岡氏の目指した農業は〝何もしない農業〟だ。自然はそれ自体で完結したシステムであると、農業手法と言うよりも思想として書かれたこの書に、木村さんの考え方に変化が生まれた。そしてそこから木村さんの挑戦が始まった。様々な書物・文献を読み漁って、リンゴ無農薬栽培を始めたが、農薬なしでは病害虫の発生、リンゴの木の病気を食い止められない。試行錯誤を繰り返しながらもついにはリンゴは収穫できず、つまり収入はなくなり家のトラクターやモノを売っては食いつないだが、それも長続きしない。着替えなしの身一つで出稼ぎに行ったり、夜はキャバレーの呼び込みをしたりと、泥にまみれた生活を自分だけではなく、家族や子供にも強いることになった。
 
Ringo1_2  そして6年目。あらゆる手を尽くしてみたもののリンゴは実らず、その木々はやせ細っていった。『なぜリンゴを無農薬で栽培しようなんて思いついたんだ』後悔をしてみても始まらず、木村さんは1本のロープを持って山へと登った。そう、首つりをするために。そして首つりをする木を探していた時に偶然1本のドングリの木に出逢った。まさに運命の出逢いだった。

 その木は月の光に輝き農薬なんかのないこの山奥に立派に育っていた。木村さんは気がついた、雑草が生え放題で地面がフカフカ、そこの土はまさに別物だった。リンゴ畑の土は、雑草は抜かれ、化学肥料でまみれて人工的に作られたものであるのに対して、ここの土は地中はあたたかく自然のサイクルの中で微生物も昆虫も、生きてる土なのだ。

Ringo2  農薬を蒔くということはリンゴの木を自然の摂理から切り離すこと。今まで、木村さんはリンゴの木を育てることに力を注いでいた。しかしリンゴの木は土に育つ植物なのだ。木村さんは自然の土の世界(サイクル)を、自分の畑で再現することに努めた。そうするとリンゴの木は根をしっかりと張るようになった。木村さんのリンゴの木は台風でも揺るがなかったそうだ。しっかりと大地に根を張っているからだ。農薬を蒔かずに害虫と呼ばれる虫やヘビなどの生物もそのままにした。そこに様々な生物が生命活動をし、そこは山の自然と同じ世界に変わってきた。

 木村さんの(というよりも自然が)育てたリンゴは、まさに生き生きとしたリンゴの木の果実というのにふさわしい。木村さんはその自然のサイクルがうまくいくように見守るのが役目かのように自然と対峙している。雑草生い茂るリンゴ畑で採れた、木村さんのリンゴはとっても美味しい。それは生命の味がするという。木村さんは育てたリンゴを高く売るようなことはしないそうだ。市場価格にあわせて売るからもうけがない。でも本人はそう言うことに構わず、貧しいみなりでリンゴを育てている。

 ぜひ興味のある人は読んでみてください。
(上記の写真4点は仙台勤務先のK教授の撮影した写真です。彼の家族が、木村さんのりんご農園を訪ねたときの写真をお借りしました、ありがとうございます。)

「奇跡のリンゴ」~絶対不可能を覆した農家、木村秋則の記録
石川拓治著 幻冬舎

Kisekinoringo2

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