もしもの仮定の先にある不安と絶望に。「ボトルネック」
亡くなった恋人を追悼するため、落下事故のあった東尋坊を訪れていた高校生のリョウ。リョウに母親から携帯にメールが来る。「事故植物人間化した兄が亡くなった」と。不仲な両親の家庭で育ち愛情薄い生活で、兄の死にも悲しみすら涌かなかった。
両親の不仲となった決定的場面では、彼はなんとかしようと両親二人を説得試みたし、友だちのいない、寂しげな恋人をなんとか守ろうと必死になっていた。しかし、不幸な死を遂げてしまった。彼はそんな生活に疲れていた。
想いに耽るリョウは、つい 何かに誘われるように東尋坊の断崖から墜落してしまった…はずだった。しかし、目覚めた時に目の前には、家のある金沢の町、見慣れた某所に戻ってきていた。狐につままれたような。腑に落ちないままながらも兄の葬儀に出るために家に戻ると・・・。
そこには見知らぬ「姉」と名乗るサキがいた。そして間違いなくそこはサキの家であり、自分という存在は・・・ないのだ。
自分のいた世界では、姉は死産で存在していないはずなのに。目の前にいる。そしてこの世界では自分は生まれなかったのだ。姉のサキとリョウはパラレルワールドにあることを自覚する。なんとか自分の世界に戻らなければ。しかしどうすれば?
自分の世界に帰る手がかりを探そうとするリョウだが、奇妙なことに気がつく。自分の世界では両親は不仲なのに、こちらでは両親は仲良く旅行に出かけていそして兄も大学に通っている。馴染みの食堂の旦那も元気で仕事をしていた。なんで?
そして何よりも驚いたことが・・!?
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ボトルネック。
流れや勢いを止めてしまうような障害、狭くなったもの。
それは場所でもあり、ものでもあり、そして人でもある。
自分は一生懸命していたのに。家族のために、恋人のために、周りの人のために。
同じシチュエーションで、サキがとった態度、行動、発言はこの世界をこう変え、自分のそれは混沌としたものにしてしまった。
今まで、何かが悪いと思っていたのが、実は自分がボトルネックになっていたんじゃないか。
設定は面白く、サクサクと読む進んでいくが、どこか暗い気持ちが、もやもやした黒い霧みたいなのが、読んでいく度に大きくなっていく。自分が生まれなかった世界、存在しなかった世界を知って、彼は元の世界に帰る勇気があるのか。また存在しないこの世界で生きていく強さを持っているのか。
自分の本質を隠すかのように、見せたくない行動はどこか見栄もあって、そういう彼の考えが最後まで残ってしまった。まだ子供だから、高校生だから熟成していない考えと行動こそ「若さ」なのかも知れない。色々と考えさせられ印象に残る本です。面白いが、ただ面白いという表現は適切ではないのだろう。読後はすっきりとしない、暗い気持ちは引きずりそう。
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