カテゴリー「こんな本読みました」の29件の記事

2010年9月 1日 (水)

もしもの仮定の先にある不安と絶望に。「ボトルネック」

亡くなった恋人を追悼するため、落下事故のあった東尋坊を訪れていた高校生のリョウ。リョウに母親から携帯にメールが来る。「事故植物人間化した兄が亡くなった」と。不仲な両親の家庭で育ち愛情薄い生活で、兄の死にも悲しみすら涌かなかった。

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両親の不仲となった決定的場面では、彼はなんとかしようと両親二人を説得試みたし、友だちのいない、寂しげな恋人をなんとか守ろうと必死になっていた。しかし、不幸な死を遂げてしまった。彼はそんな生活に疲れていた。

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想いに耽るリョウは、つい 何かに誘われるように東尋坊の断崖から墜落してしまった…はずだった。しかし、目覚めた時に目の前には、家のある金沢の町、見慣れた某所に戻ってきていた。狐につままれたような。腑に落ちないままながらも兄の葬儀に出るために家に戻ると・・・。

そこには見知らぬ「」と名乗るサキがいた。そして間違いなくそこはサキの家であり、自分という存在は・・・ないのだ。
自分のいた世界では、姉は死産で存在していないはずなのに。目の前にいる。そしてこの世界では自分は生まれなかったのだ。姉のサキとリョウはパラレルワールドにあることを自覚する。なんとか自分の世界に戻らなければ。しかしどうすれば?

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自分の世界に帰る手がかりを探そうとするリョウだが、奇妙なことに気がつく。自分の世界では両親は不仲なのに、こちらでは両親は仲良く旅行に出かけていそして兄も大学に通っている。馴染みの食堂の旦那も元気で仕事をしていた。なんで?
そして何よりも驚いたことが・・!?

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ボトルネック。
流れや勢いを止めてしまうような障害、狭くなったもの。
それは場所でもあり、ものでもあり、そして人でもある。

自分は一生懸命していたのに。家族のために、恋人のために、周りの人のために。
同じシチュエーションで、サキがとった態度、行動、発言はこの世界をこう変え、自分のそれは混沌としたものにしてしまった。
今まで、何かが悪いと思っていたのが、実は自分がボトルネックになっていたんじゃないか。

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設定は面白く、サクサクと読む進んでいくが、どこか暗い気持ちが、もやもやした黒い霧みたいなのが、読んでいく度に大きくなっていく。自分が生まれなかった世界、存在しなかった世界を知って、彼は元の世界に帰る勇気があるのか。また存在しないこの世界で生きていく強さを持っているのか。

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自分の本質を隠すかのように、見せたくない行動はどこか見栄もあって、そういう彼の考えが最後まで残ってしまった。まだ子供だから、高校生だから熟成していない考えと行動こそ「若さ」なのかも知れない。色々と考えさせられ印象に残る本です。面白いが、ただ面白いという表現は適切ではないのだろう。読後はすっきりとしない、暗い気持ちは引きずりそう。

51kzbbkpy2l__ss500_ ボトルネック
米澤 穂信 (著)
新潮文庫)[文庫]

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2010年8月14日 (土)

東京ディズニーリゾートで疑似入社体験?「ミッキーマウスの憂鬱」

今まさに大混雑の頂点にあると思われる、東京ディズニーリゾート。儲かりすぎてウハウハでんなぁ・・なんて野暮なことを考えちゃぁいけません。夢と魔法の王国ですから、そんな庶民的なことを言ったらミッキーに叱られます。そんな東京ディズニーリゾートでキャスト(アルバイト社員)として働き始めた青年の3日間のお話です。

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【あらすじ】

 21歳の後藤大輔はフリーター、夢を与える仕事がしたいからと、東京ディズニーランドのキャストに応募した。しかし、ジャングルクルーズのキャストの試験でとちりまくり、最後はメチャクチャになって試験も途中終了。当然不採用なはずが、審査員の一人の社員が彼の笑顔に惹かれ(実は人手不足で)、採用を決定する。

配属先が「ヴィショーブ」という聞き慣れない言葉に、期待に舞い上がる後藤君がたどり着いた職場とは・・・。

華やかに見えるディズニーリゾートの表舞台を支えるのは、とにかく忙しく働きまくるキャスト、それも来客(ゲスト)の目に触れることのない裏方で、鬱憤をためながらも、一つ一つの出来事が彼に仕事というものを教えていく。

当初は「なんだこいつ・・」的なうざい青年・後藤君も最初は「俺が・俺が」みたいな行動が鼻につくが、徐々に周りが見えてくる。そうして「ヴィショーブ」と後藤君はある大きな事件に巻き込まれていく。それはディズニーランド開演以来の大事件だ。それを決して外に漏らしてはならない。限られた時間の中で、一番下っ端の後藤君が解決へと奔走する・・・。

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そんなお話です。とっても面白かった。色々な本で、オリエンタルランド社の社員の働き方、キャストの意識と厳しさを知っていたが、一人の未熟な青年がその世界で繰り広げられる失敗や、「大人の」人間関係・職場関係に戸惑いと不信感すらも持ち始める。

作者はフィクションです、と断っているが、かなりリアリティーがあるので相当取材を続けてきたようだ。特にミッキーの中に入っている人に関わる話はとっても興味深い。そこにはゲストには見せていけない厳しい競争社会が存在する。

では「ミッキーマウスの憂鬱」は「ディズニーランド」の内幕の暴露本なの?ってことになると、そういうレベルではない。ランドという夢と魔法の王国を舞台に繰り広げられる人間関係は現在の日本社会の抱えている雇用形態への問題提起だし、コンピュータ・システムに頼りすぎた経済社会への警鐘ともなっている。そしてサスペンスドラマとしてとても見応えのある作品に仕上がっている。

もし特にこの夏休みは出かけないよーって人、ディズニーランドに行く機会が最近ないなーって人は、この本を読んで後藤君と共に園内を駆け回り、今までと違った視点から、でも夢と魔法の世界を維持する人たちの「夢を与え続けたい」という一途な努力をともに味わってみてはいかが。

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「ミッキーマウスの憂鬱」
松岡圭祐/著 新潮文庫 発売日  :  2008/09/01

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2009年10月14日 (水)

腐らないリンゴの話~「奇跡のリンゴ」木村秋則の記録

Rigo4リンゴの木は、リンゴの木だけで
 生きているわけではない。
 周りの自然の中で、
 生かされている生き物なわけだ。
 人間もそうなんだよ。
 人間はそのことを忘れてしまって、
 自分独りで生きていると思っている

 (本書より抜粋)

 最初「腐らないリンゴ」ってきいた時、特に感慨もなく意味が分からなかった。リンゴが腐らないという話は、あたかも人は死なないというような話にも似た非現実的な話という印象でしかなかったからだ。腐らない、という表現は適切じゃない。ちょっと、本書の前書きの部分を引用する。

・・半年先まで予約でいっぱいの、知る人ぞ知る隠れレストラン。その看板メニューの一つが、「木村さんのリンゴのスープ」です。シェフの井口久和さんが、リンゴをきざみながら呟きます。
「腐らないんですよね。生産者の魂がこもっているのか・・・」
井口さんの厨房で、二年前から保存されていた、二つに割ったリンゴを目にしました。通常、リンゴは切ったまま置いておくと、すぐに変色し、やがては腐ってしまいます。しまし、その木村さんのリンゴは腐ることなく、まるで「枯れた」ように小さくしぼんでいました。そして、赤い色をほのかに残したまま、お菓子のような甘い香りを放っていたのです
。」
 (本書より抜粋)

Ringo3  現代、品種改良が繰り返され、大きく甘くなったリンゴは、農薬の助けなしでは病害虫に戦えない、きわめて弱い植物なのだそうだ。そう言う意味で、リンゴは農薬に強く依存した、現代農業の象徴的存在と言える。そのリンゴを無農薬で育てる、そんな途方もない夢に魅入られたのが、木村秋則さんだ。
 青森県の農家で次男坊として育った木村さんは、機械の仕組みが好きな少年期を過ごし、高校卒業後上京、川崎の工場で勤務、やがて青森に呼び戻され、リンゴ農家に婿養子ではいる。最初はアメリカ型のトラクターで農薬をバンバン蒔いての農業をやっていたが、ある書と出逢って彼は変わった。

「自然農法」福岡正信著
福岡氏の目指した農業は〝何もしない農業〟だ。自然はそれ自体で完結したシステムであると、農業手法と言うよりも思想として書かれたこの書に、木村さんの考え方に変化が生まれた。そしてそこから木村さんの挑戦が始まった。様々な書物・文献を読み漁って、リンゴ無農薬栽培を始めたが、農薬なしでは病害虫の発生、リンゴの木の病気を食い止められない。試行錯誤を繰り返しながらもついにはリンゴは収穫できず、つまり収入はなくなり家のトラクターやモノを売っては食いつないだが、それも長続きしない。着替えなしの身一つで出稼ぎに行ったり、夜はキャバレーの呼び込みをしたりと、泥にまみれた生活を自分だけではなく、家族や子供にも強いることになった。
 
Ringo1_2  そして6年目。あらゆる手を尽くしてみたもののリンゴは実らず、その木々はやせ細っていった。『なぜリンゴを無農薬で栽培しようなんて思いついたんだ』後悔をしてみても始まらず、木村さんは1本のロープを持って山へと登った。そう、首つりをするために。そして首つりをする木を探していた時に偶然1本のドングリの木に出逢った。まさに運命の出逢いだった。

 その木は月の光に輝き農薬なんかのないこの山奥に立派に育っていた。木村さんは気がついた、雑草が生え放題で地面がフカフカ、そこの土はまさに別物だった。リンゴ畑の土は、雑草は抜かれ、化学肥料でまみれて人工的に作られたものであるのに対して、ここの土は地中はあたたかく自然のサイクルの中で微生物も昆虫も、生きてる土なのだ。

Ringo2  農薬を蒔くということはリンゴの木を自然の摂理から切り離すこと。今まで、木村さんはリンゴの木を育てることに力を注いでいた。しかしリンゴの木は土に育つ植物なのだ。木村さんは自然の土の世界(サイクル)を、自分の畑で再現することに努めた。そうするとリンゴの木は根をしっかりと張るようになった。木村さんのリンゴの木は台風でも揺るがなかったそうだ。しっかりと大地に根を張っているからだ。農薬を蒔かずに害虫と呼ばれる虫やヘビなどの生物もそのままにした。そこに様々な生物が生命活動をし、そこは山の自然と同じ世界に変わってきた。

 木村さんの(というよりも自然が)育てたリンゴは、まさに生き生きとしたリンゴの木の果実というのにふさわしい。木村さんはその自然のサイクルがうまくいくように見守るのが役目かのように自然と対峙している。雑草生い茂るリンゴ畑で採れた、木村さんのリンゴはとっても美味しい。それは生命の味がするという。木村さんは育てたリンゴを高く売るようなことはしないそうだ。市場価格にあわせて売るからもうけがない。でも本人はそう言うことに構わず、貧しいみなりでリンゴを育てている。

 ぜひ興味のある人は読んでみてください。
(上記の写真4点は仙台勤務先のK教授の撮影した写真です。彼の家族が、木村さんのりんご農園を訪ねたときの写真をお借りしました、ありがとうございます。)

「奇跡のリンゴ」~絶対不可能を覆した農家、木村秋則の記録
石川拓治著 幻冬舎

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2009年6月18日 (木)

3人のプロの殺し屋と一人の民間人のせめぎ合い。グラスホッパー(伊坂幸太郎)

かけがいのない妻の命を許せない交通事故で奪われた。その犯人は、なぜか警察も手が出せない謎の会社の放蕩息子。教師の鈴木は、妻の復讐を果たすために、職を辞してその組織への侵入する。そこで目にしていくモノは。。

鯨、蝉、押し屋。3人のプロの殺し屋と、妻の復讐に燃える鈴木とが、重なり絡み合いながら、疾走していく。
「押し屋とは何者なのか?」
鯨、蝉、鈴木の話が、交互に切り替わりながらも、結末へとたたみ込んでいくそのスピード感。それは3本の小さな支流が、やがて大きな本流へとうねりを上げて合流していく圧倒感ともいうべきか。

話の内容は道徳観のない「殺し屋」の世界ながらも、鈴木と亡き妻、蝉と岩西、鯨と亡霊。それぞれの言葉のやりとりの妙さ、おかしさ、含蓄に、つい引き込まれていく。

最近映画化された「重力ピエロ」の他、ラッシュライフ、死神の精度なんかの著書で人気のある伊坂幸太郎だけど、その中でも異色の1冊だと思う。読後はなんとなくやりきれなさと、妙な納得感、疾走の後の完結感、なんかを感じる1冊。読んでて薦められる本じゃないけど、読んでも損のない1冊だと思うな、きっと。

「グラスホッパー」伊坂幸太郎著 7点 ★★★☆

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2009年1月 9日 (金)

精神病疾患の患者の視点から描いたミステリー名作。「閉鎖病棟」

九州のある精神病棟で起こった事件。その人間模様に涙する。

社会からも家族からも疎外された精神疾患患者たちを現役医師が、患者側からの視点で愛情を込めて書いたサスペンスドラマ。
それぞれの入院患者の人生を丁寧に描くところから物語が始まる。島崎さん、秀丸さん、昭八ちゃんのエピソードから入り、そして全員が入院(通院)する精神病施設が舞台となる。

お互いを愛称で呼び合う共同生活で、それぞれの人生を生きている生き様を筆者は優しい視点で描いており、それがとても暖かい。精神疾患患者が身近にそして読み進むうちに一人一人が親しく感じていく。筆力の確かさを感じる。

しかし後半に残念な事件が起こる。それは今まで均衡を保っていた病院内の人間関係を崩壊していく。そして話はドラマチックに終焉を迎える。

話は小手先で演出やどんでん返しをするものではない。淡々と、でも心に浸みる結末を迎える。時間があるときに読んで欲しい1冊です。いつまでも心に残る名作だと思う。

山本周五郎賞受賞作。

「閉鎖病棟」帚木 蓬生 著

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2008年10月16日 (木)

他人と共有できない希望を求め。。村上龍の短編集「空港にて」

都会では人が多ければ多いほど孤独になれる場所がある。

「コンビニ」「居酒屋」「公園」「カラオケルーム」「披露宴会場」「クリスマスのホテルラウンジバー」「駅前」・・・そして「空港」。
この8つの場所を舞台とした8編の短編集。

いずれも人の集まる場所である。しかしここほど孤独な場所はない。他人の声・音が消え、自分の思念が重く支配する。街の風景、周りの情景がモノトーンのように醒めて目に映り、自分は回顧の思いに捕らわれていく。そこに確かな未来を見出そうとし、その光の先を、眩しそうに目を細めながらおぼろげに手探りをする。

村上龍のドライな書き方が淡泊に情景を描き、それにリアリティを感じることが出来る短編集だ。希望の光が見えてきそうな作品から現状に希望を捨ててしまったような作品まで。
そんな中で、表題の「空港にて」「駅前にて」「カラオケルームにて」とか好きな作品だ。

何気なく過ごしている日々、周りの情景を一度スローモーションのように観察してみると見えなかった思いが脳裏に描かれるかもしれない。
本当に短編なのであっという間に読んでしまう読みやすさだ。

「空港にて」村上龍 7点 ★★★☆

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2008年9月12日 (金)

淡々と過ぎていく、でも確実に変わっていく日常「卵の緒」

4117tk1cgsl__ss500_ 「絆」・・・不確かな繋がりを、生活の中で確かめる愛。

2つのお話からなる。

「卵の緒」 「7’s Blood」

「卵の緒」は母と子、「7’s Blood」は異母姉弟のお話。
いずれも〝不確かな絆〟を手探りするかのような、淡々とした愛情を感じる。
瀬尾さんらしいまったりとした世界観。瀬尾さんの作品は、必要最小限な登場人物で構成され、それだけに一人一人の存在感が高い。
彼らの言葉、息づかいが生々しく、といって力が入っているわけではない自然体のところが、優しく暖かく、そして時に痛々しく「違和感」を出してくれる。それがまた心地よい。

2話とも大きな事件があるわけでもなく、淡々と時間が過ぎていく、その自然体の世界。

いずれも作品も、食事をするシーンが印象的だ。家族爛漫の食事風景、豪華な会食なんかじゃない。一般的な、ときに寂しい食事シーンだったりする。
でも、そんな食事をする風景を描くことで、それぞれの人物像を間接的に描き出している。その人となりが、食事をするときに顕れるってことなんだなと実感。

この作品は、瀬尾さんのデビュー作で、「坊ちゃん文学賞」大賞受賞作。

「卵の緒」 瀬尾まいこ著 7点 ★★★☆

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2008年9月 3日 (水)

むき出しの闘争心、痛々しいまでの純愛の中で。「GO」

第123回直木賞受賞作。
「在日朝鮮人」から「在日韓国人」へと国籍を変え、民族学校から日本の高校へと入学した杉原。
常に向かってくる相手は倒す相手として、むき出しの闘争心を見せる。諸刃の刃のように自らの心も斬りつけながら。それが日本人に対しての自分の向かいあい方であるかのように。
そんな杉原の前に現れた不思議な少女、桜井。
あくまでも自分のペースで生きてゆく桜井にいつのまにか惹かれていく杉原。
彼の前には「在日」という壁が常にある。学校でも友人でも恋愛でも。
それを取り払うために、ボクシングで力を得、本を読んで知識を得た。
しかし力と知識で振り払えば振り払うほど「差別」は彼の前に大きく存在していく。
それに向かって冷静なはずの杉原が、盲目的な疾走感で突き進んでいく。

元ボクサーの彼の父親が言う。
「俺は朝鮮人でも、日本人でもない、ただの根無し草だ」
彼らは、そう、日本で、この日本に生まれた。
我々と同じように。

いずれ我々の棲む世界が「在日」とか「国籍」とかの隔たりのない世界へと昇華していくことを願うばかりだ。
青すぎる青春小説だけど、痛々しいばかりの敏感な心の襞に触れる思いだ。面白い。

映画化されたが映画は観ていない。逆にこの人の著者で、「フライ、ダディ、フライ」は映画しか観ていない。余談だけど。

「GO」 金城一紀著 7点 ★★★☆

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2008年8月29日 (金)

女性であること、それを楽しむこと。「肩ごしの恋人」

「肩ごしの恋人」唯川 恵

第126回直木賞受賞作。
つねに自分に正直に、恋に生きようとする るり子、恋にも仕事にも熱くなれずにクールな萌。二人の女性は27歳、子供の頃からの幼なじみで親友。両極端な生き方の二人を、淡々と描いている。
るり子の生き方は、最初はむかつく女の代表みたいに感じたのに、途中からユーモラスにおかしく、最後になるともう、同情したくなる位に笑える・・。
そんなるり子にいつも振り回されながらも、自分の生き方は守っている萌、時には自由奔放になろうとするけど・・・。
その二人の前に現れた、15歳の家出少年の崇。
いつのまにか、その3人の奇妙な共同生活が始まった。

本文にこのように書かれている。
「女には二つの種類がある。自分が女であることを武器にする女か、自分が女であることを弱点に思う女か。このふたつの女はまったく違う生き物だ。」 

作者の言いたい事はこれに尽きると思う。そしてこれを、軽く、軽く。ユーモラスに書く事で読む人をこの世界に引き込んだ。
バツ3の女,歌舞伎町のゲイ、妻子持ちの男、それらが二人の女を彩る。意外な結末も淡々と、そして大人の女の友情(腐れ縁)ってヤツを微笑ましく描ききった。いい本だと思う。

「肩ごしの恋人」唯川 恵  8点 ★★★★
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2008年8月11日 (月)

無職の女性たちを淡々と描く。「プラナリア」

女流作家 山本文緒さんはこの『プラナリア』で第124回直木賞を受賞。
独特の鋭い人物観察眼による5人の女性の生き様を描ききった5篇の短編集。
さっと紹介すると。

「プラナリア」
ウラナリアとは、ウズムシとかの体調2~3センチの扁形動物。
OLだった春香は、乳ガンとなり乳房を摘出。癌との闘病で会社を辞める。しかし全てに無気力になり捻くれていく自分が嫌いになり・・。

「ネイキッド」
バリバリの凄腕女性経営者だった涼子は、突然の離婚を言い渡され全てを失い、気力も失って何をやってもやる気のない生活を送っていた。ネットカフェで時間を潰す彼女の前にかつての部下が現れた・・。

「どこかでないここ」
専業主婦だった真穂は、夫の突然のリストラで、深夜の安売り量販店でパートにでることとなる。自分と夫の老親の面倒み疲れ、言うことを聞かない子供達への苛立ち。慣れぬ職場での戸惑い。そんな中で自分を見つめ直してみると・・。

「囚われ人のジレンマ」
大学院生の彼から「結婚してもいいよ」と切り出された。25歳の美都は違和感を感じる。不倫、行きずりの恋とに悩みながらも結婚する気のない美都の前に現れたのは・・。

「あいあるあした」
企業戦士として家族に振り返ることなく働き続けた真島は、その家族を失った時に居酒屋へと転職をした。その店にやってきた宿無しのすみ江。その自由奔放な生き方に腹立たしくもいつの間にか惹かれていく。

いずれも〝無職〟の生き方を、その独自の切り口で、淡々としかしリアリティに描いていく。心の内の書き方がとっても上手で読みやすく、自己中な主人公のその平面的じゃない人物達の、ありのままの物語となっている。
明確なエンディングを迎える話はなく、中途半端な終わり方と言ってしまえばそれまでだけど、なにか見えてきそうな終わり方は、自分としては悪くない。

5篇のいずれも心に残った短編だが、特に「ネイキッド」に出てくる涼子と「あいあるあした」に出てくるすみ江には特に惹かれた。

女性の生き方なんて偉そうには語れないけど、心のひだを少し理解できた気がする、心に残る名著だと思う。

「プラナリア」 山本文緒著 9点 ★★★★☆

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